その暴走を止める者
―驚異のミスマッチ!―







「集合っ!」


テニスコートに部長の跡部の声が響いた。
200人にも昇る氷帝学園テニス部の部員がぞろぞろと跡部の側に集まる。


「終わったみてーだな」


それを見て氷帝一の暴君女子マネージャーは飲み物を用意する。
金曜日の夕方、日も暮れかける頃に終わる部活。
集合した部員に監督の榊が何か話しているのが見える。


「それでは、いってよし!」


ビシっと2本指を指し、いつもの解散命令を出す榊監督を見て
いつもながら訳のわからねぇー解散合図だな、とは心の中で思う。
みんなが話しながら部室に戻る中、コートには2人の人影があった。
ナルシスト度なら誰にも負けない最強(最狂?)部長の跡部と、
氷帝テニス部の「天才」と謳われる忍足だ。
2人が何か話しているのは見えるが、何を話しているかは距離があって聞こえない。
そんな2人を見ては何かを思いついたように、ニヤリと笑った。






一方こちらは跡部&忍足側。
部活が終わり部活に戻ろうとする忍足を跡部が止めた。


「おい、侑士」

「ん?なんや?」

「お前確かこの映画が見たいって言ってただろ?」


跡部はそう言って2枚のチケットをポケットから取り出した。
普段あまり表情のない忍足だが
そのチケットを見て少し驚いた様子で手にした。


「これ、どないしてん?」

「あぁ、知り合いから貰ったんだけど俺はそんなん―――」

「おぉ〜〜〜しぃ〜〜〜ちゃぁ〜〜〜ん!!」


跡部の言葉は遠くから聞こえるの声に遮られた。
足音と共にだんだん近づいてくるの声に跡部は反射的に周囲を見渡した。


「や、ヤツが来る・・・!!!」

「あいつ?あぁ、の事か。どっかから声が聞こえてくるんやけど・・・・・あ、あそこや」

「どこだ!?」


忍足が指差した先にはが自慢の超人的スピードの走りでこちらに向かって走ってくる。
身の危険を察知した跡部は急いで逃げようとしたが、もう遅かった。
忍足は表情を変えずに次に起こることを予測してが走ってくるのを見ていた。


「何話してんだ、忍ちゃ〜〜〜ん!!」

「ぐあっ!!!」


忍足の予想通り、はいつものように跡部を力ずくで退散させる。
はにこにこ笑いながら忍足と向かい合っている。


「跳び蹴りとはまた思い切った事すんなぁ、

「跡部ならあれくらいで死んだりしねーよ。大丈夫大丈夫」

「・・・・・・てっめぇ・・・何が大丈夫だ・・・・・・」


低い唸るような声で地から這い上がるように起きる跡部。
しかしはそんな跡部には目もくれず、忍足と会話を続ける。
これ以上関わってら、またに蹴りの1発や2発くらい入れられそうなので
跡部は2人を残し、さっきののとび蹴りのせいで打った腰をさすりながら部室に戻った。


「んで?跡部と何の話してたんだ?」

「あぁ、そうや。映画の無料チケット2枚貰ったんや」

「跡部が!?あの跡部が人に物をやるなんて・・・・・」

「この映画、あいつの趣味には合わんらしいねん」


そう言うと忍足は2枚のチケットをちらっと見てポケットにしまった。


「このチケットの期限やと明日見に行かなあかんねんけど、も一緒に来るか?」

「おぉ、行く行く!!明日は学校も休みだしな」

「んじゃ、明日10:00に駅前でな」

「おう!!」


こうして忍足と映画に行く事になった
タダで映画を見られるというのだから、これを逃す手はない。
しかしが家に帰って寝る前に、ベッドである事に気付いた。


「そう言えば、いったい何の映画見に行くんだろ?2枚とも忍ちゃんにチケット預けてるしな・・・・
やっぱ忍ちゃんの性格から考えて、ミステリーか?いや、それともアクション物?
・・・・ま、いっか。明日行けば分かる事だ」


考えを中断すると、は布団を被り眠りに堕ちた。
そう。この時は予想もしていなかった。
いったい明日見る映画が、どういう物なのかを。
忍足の隠された趣味を・・・・・・・・






「おっせーな〜、忍ちゃん・・・・・」


ったく、なんで氷帝テニス部の3年は
ゴーイング・マイ・ウェイな奴らばっかりなんだよ・・・・
跡部なんてそれにプラスして俺様野郎とくるし、
忍ちゃんは天然なんだか策略かどっちかしらねーけど、人を有無言わさねぇ力あるし・・・・
それにしても、ホントにおっせーぞ忍ちゃん・・・・・
もう30分くらい過ぎてるのに、まだ来ねぇー・・・・・


「悪いな、。ちょっと遅れた」

「うわっ!!」


いきなり声を掛けられては思いっきり飛び上がった。
まだバクバクいっている胸を押さえながら、自分より身長の高い忍足を見上げる。


「い、いきなり声かけんなよ忍ちゃん・・・・今ので寿命が数年縮んだぜ・・・・」

なら多少寿命が縮んでも、その分を補う程跡部でストレス解消してんねんから大丈夫やろ」

「それもそうだな・・・・・・って、そんな事言ってる暇じゃねーんじゃねぇの?
早く行かねぇと、映画始まっちまうぜ?」

「そうやな。ほな、行こか」


忍足にうながされ映画館へと向かう。
ついた映画館は大きい、市内でも有名な映画館だ。
映画告知のポスターが貼られている。


「え〜っと、なになに・・・・・・」


一番左は、「ラスト・エスケープ」・・・・・黒い服着てサングラスをかけてる奴が、
いかにもって感じで銃を持ってんな。格闘物か?まぁまぁだな。
その右は「月の光〜沈める鐘の殺人〜」・・・・お、これはおもしろそうだぞ。探偵とか殺人物だろーな。
忍ちゃんもイメージ的にこれが一番あってるし、普段あんま表情を変えねぇ忍ちゃんが
あんなに嬉しそうにチケット持ってたんだだから、たぶんこれじゃねぇかな?あたし的には、これが一番よさそうだな。
そのさらに右には・・・・うわっ「True Love Story」って・・・・
タイトルからして、バリバリのラブロマンスじゃねぇか・・・・・
忍ちゃんがこんなん見てる所なんて、想像できねぇな・・・・
っていうか、ありえねぇよな。うん。あたしはラブロマなんて死んでも見れねぇ・・・・・
たしかとが、この映画は面白いって言ってたけど
あたしにはとても見れねぇな〜・・・・・


・・・・、早く行かな始まってまうで」

「あ、悪りぃ。んで?どれ見んだよ」

「あぁ、言ってへんかったな。あれや、あれ」


忍足の指差した先を見ると、さっき見ていた3つの告知ポスターがあった。
忍足の指が指していたポスターは・・・・・・


「なんだ、やっぱな。あの探偵物っぽいやつだろ?
忍ちゃん、雰囲気的にああいうの好きそうだよな」

「ん?ちゃうで、。今から見る映画はその右にあるやつ」

「右?」


右、と言われは視線を右に動かした。
しかしそこにあるのは、あのラブロマ系の映画の告知ポスター。


「何言ってんだよ忍ちゃん。左だろ?右と左も分からなくなっちまったのか?」

「右と左も分からんくなったのはやって。右やで、右」

「・・・・・・・右って・・・・・・右?」

「だからそうやって。あの探偵物のポスターの右にある、True Love Storyってやつや。
チケットにもそう書いてるやろ?」


そう言うと、忍足はポケットからチケットを2枚取り出した。
そのチケットには、しっかりと映画のタイトルが書き込まれていた。
書いているタイトルは、上から見ても下から見ても、逆さにしても回しても
何をしたって「True Love Story」にしか見えない。


「・・・・・・お、忍ちゃん・・・・・おまえ、さ・・・・・」

「なんや、はよ行くかな始まってまうで?」

「いや、だから・・・・・忍ちゃんが好きな映画のジャンルって・・・・・」

「あぁ、は知らんかったんか?俺の趣味は映画鑑賞で、好きなんはラブロマンス系や」


、沈黙すること約30秒。
必死に思考をはしらせています。



ラブロマンス?あの忍ちゃんがラブロマ?
ありえねぇよな。うん。たぶんコレは全部夢だ。
あの忍ちゃんが、ラブロマなんてな〜。
絶対ありえねぇーーー。あ、そうだ。後で跡部をぶっ飛ばしとかねーといけねぇ。
こんな変な夢見てんのも、元凶はあいつなんだから。
あいつが忍ちゃんにチケットなんて渡さなかったら
あたしもこんな長い、加えて変な夢なんて見る事もなかったんだから。
うん。そうしよう。
とりあえず、この夢から覚めねぇとなぁ〜・・・・・・・・




、なにボケっとしてんねん。はよ行くで!」

「・・・・・ゆ、夢じゃねぇぇぇぇぇ!!!!!


よっぽど見るのが楽しみなのか、いつになく嬉しそうな忍足。
の腕をずるずるとひぱって、中へ進んでいく。
この後は想像を絶するラブロマ映画を見せられ、
まだ時間があるからと言われ、その後もう3本立て続けで映画につき合わされた。
ジャンルは言うまでもなく、ラブロマンス。
その日の夕方、は死ぬ思いで家へと帰宅したのであった。

氷帝学園3年、忍足侑士。
テニス部の天才と謳われたその人の趣味は映画鑑賞。
鑑賞する映画は主にラブロマンス系。
氷帝でこれを知っている人は、いったい何人くらいいるのだろか?




〜後日、氷帝学園にて〜



「あぁぁぁぁぁとぉぉぉぉぉぉべえぇぇぇぇ!!」

「な、何なんだいったい!!追いかけてくるんじゃねぇ!!」

「てめぇぇ!!逃げんなーーーーーー!!待ちやがれ!!
てめぇのせいで・・・・・てめぇのせぇぇでぇぇ!!」

「お前が侑士の趣味を知らなかっただけだろ!!」

「うるせぇぇ!!あたしはあの日、見るに耐えねぇラブロマ映画を4本立て続けで見たんだぞ!?
てめぇにこの苦痛がわかるか、あぁ!?
今すぐそのエロくさい泣きぼくろを手作業で取り除いてやる!!

「わけの分からない事言ってるんじゃんぇ!!!追いかけてくるな!!!」

「問答無用!!待ちやがれ!!」



怒り狂ったに追いかけられる跡部など気にも留めずに
週末好きな映画が4本も見れた事に大満足している一人の天才は
ひそかに影で嬉しそうに笑っていた。









〜後書きと言う名の懺悔室〜


忍足とは勝敗五分五分な主人公でした。
跡部は、明らかに負けてるな(^^)
さてさて。氷帝の天才、忍足侑士様がラブロマ映画好きだという事を知っている人は
このドリームを読んで頂いている方の中に
何人くらいいらっしゃるのでしょうか?とっても興味深いです。
テニスの王子様のゲーム、Smash Hitをやった事のある人ならご存知でしょうが、
忍足のプロフィールに「趣味:映画鑑賞」とあったのです。
しかも、横に「(主にラブロマンス系)」と、わざわざ書いてありました。
・・・・・・・知らなかったよ、忍足!!!!
あなたって、意外とロマンチストなのね!!
これを知ったとき、私は腹の底から爆笑しました。死ぬかと思いましたよ・・・・・
あの衝撃的な瞬間は、忘れられませんね・・・・・・・
ついで、話中の映画のタイトルは、適当にゲームのタイトルを使わせていただきました。
Last Escapeは知っている人は多いんじゃないかな?
あるシリーズ物のゲームだし。